さてマフ様が女王様に(この場合メルヘンな方ではなくSの方が正しいか)即位されてから早半年。
「もうおいしいものしかいただきません。」宣言をされてから、給仕担当の私は日々お気に召す物を食べていただきたく、その日の気分をお伺いするのです。
女王様は自らキッチンまで出向かれ、私が用意する食材や料理に一度鼻をお通しされます。
そしてちょっとでもお気にめさないと、ぷいっとソッポを向かれ、さっさとキッチンから出て行ってしまわれます。
「もうちょっとボイルしてね。」
「今日は生のお肉でいいわ。」
「海苔が巻かれていないじゃないの!」
「ちょっと手抜きね。おいしい物をトッピングして!」
「オムレツ風がいいわ。」
「今日はパンケーキがいいの。」
などなどお気に召されるまで、一口も口にしてくれません。
だけど、私たちの口にする物にはもの凄い勢いで、
「それをよこしなさい!」っとすっとんでくるのです。
それに最近特にお気に入の鶏肉をボイルしてる時や、
オヤツのクッキー等を焼いている時は、キッチンの側から離れてくれません。
私がサボらないように大きなお目目でギロギロと見張っているのです。
これで食欲がないといえるのか?と、
たまにとっても疑問に思う私ではありますが、
なんせ「もうおいしいものしかいただきません。」宣言をされてしまっているので、
女王様の機嫌をそこねないようにがんばるしかありません。
そんなごちそう作りにいそしんでいた私。
奇麗なオレンジ色のそれはとっても大ぶりの人参が手に入ったので、
気に入っていただけるかとドキドキしながら、包丁をクイッと差し込んだ瞬間、
つるっとくるっと包丁が空中を回転しました。
運良くキッチンに女王様がいなかったので、
空中に飛んだ包丁を素手でつかむ必要はまったくなかったのに、
気がついた時には空中を飛ぶ包丁の下にサッと手が伸びていたのです。
その包丁は奇しくももう1人の執事が昨晩スラリスラリと刃先を磨いだばかりでした。
つぎの瞬間親指の下に包丁が突き刺さったのが、見えました。
痛ッ。
包丁を振り払うとパックリ口が開いているのが見えます。
慌てて傷口を摘みましたけど、離すとパカッと割れてしまいます。
また摘んでしばらく我慢をするけれど、離すとパックリ。
ああこりゃダメだくっつかん。
しかたがないので、傷を摘んだままバンドエイドを数枚、
動く残りの指と口でベタベタと止血するようにキツく張って、
「何のお祭り?何のお祭りなの?」
とひとりトッチラカッテル女王様を振りほどき、
近くの病院に駆け込んだら、
「縫う程ではないでしょう。」だって^^;
慌ててしまいました。
今時ってキズパワーパッド™で十分だそうですね。すごいですね。結構覚悟して行ったのに。
そんな手負いの私にも容赦のない女王様のご機嫌です。